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閉店まで、あと三十日。 午前五時、セルフ式スタンド「陽だまり給油所」の所長・灰谷悟は、いつもどおり地下タンクに検尺棒を下ろしていた。閉店査定に来たエリアマネージャーの黒須は言う。「廃止する店に燃料は要らない」。 タンクローリーの荷卸しが始まった、その瞬間。地面が唸り、空が白くなり、店は丸ごと黒松の丘へ落ちていた。 眼下には、青緑の炎で灯る石の街ヴェルナ。街は地下から湧く「地油」で生きていたが、神殿は「井戸は減りゆく」と説き、灯りを配給して人々を従わせていた。かつて井戸を毎朝測っていた「検尺官」は、二十七年前に廃されていた。 生き延びるために店を開くと、白い火の水は街の荷車を狂ったように走らせた。整備士が荷車を直し、パート主婦が世間話で商品を売り、運転手が配送計画を立てる。丘の店は街の心臓になっていく。 だが同じ丘に落ちてきた黒須は、神殿と手を組んで宣言した。「白い火は、あと三十日で尽きる」。閉店の時と、同じ数字だった。 すべてを自分で測らなければ気が済まない男が、人に任せることを覚えるまで。 検尺、混油、給油許可、在庫差――地味な業務用語が、一本の真鍮の棒とともに街の運命を決める。 最後に主人公が井戸の底から引き上げるのは、油の量ではない。自分の残量だ。 「数字は測ってから信じろ。人は信じてから測れ」 「満タンってのはな、帰りの分まで入ってることだ」 笑って、燃えて、最後に一本の棒が街を救う。全二十二章、約六万字。 帰りの分を残して、夕方に帰りたくなる物語。
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