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『葛の葉――母を忘れられないまま』 「母は僕を愛していた。 この問いから、この物語は始まります。 安倍晴明の母として、古くから語り継がれてきた葛の葉。 けれど、伝説の中で語られる「狐の母」という姿だけではなく、 愛する人と出会い、妻となる。 何気ない日々の中にあった幸せ。 夫・保名の声。 葛の葉にとって、それはかけがえのない時間でした。 だからこそ、別れは簡単なものではありませんでした。 愛しているから、離れる。 そんな言葉だけでは説明できないほど、 葛の葉は山へ帰り、保名は妻のいない家に残される。 そして晴明は、母のいない日々を生きていく。 「なぜ母は帰ってこないのか」 幼い晴明の心には、母への愛と寂しさ、そしてやがて怒りさえ生まれていきます。 一方、保名もまた、妻を失った悲しみを抱えながら、父親として息子を守ろうとします。 三人は同じ家族でありながら、それぞれ違う場所で、違う悲しみを抱えて生きることになるのです。 やがて晴明は、母に会いたいという思いを胸に、父とともに母のいる山へ向かいます。 そして、ついに訪れる再会。 そこで交わされる言葉は、決して優しいだけではありません。 「なぜ僕を置いていったの?」 「愛しているなら、なぜ?」 愛していることと、傷つけないことは、必ずしも同じではありません。 この物語では、誰か一人を正しい人、誰か一人を悪い人として描きません。 葛の葉にも、保名にも、晴明にも、それぞれの言い分があり、それぞれの愛があり、それぞれの後悔があります。 母を失った少年は、やがて成長し、人の言葉だけではなく、その奥にある心を見るようになっていきます。 人は笑っていても、悲しんでいることがある。 黙っていても、誰かを大切に思っていることがある。 離れていても、愛が消えたとは限らない。 そんな、人の心の複雑さを知った少年は、やがて自分自身の人生を歩き始めます。 母を忘れたからではありません。 母を忘れられないまま、それでも前へ進むのです。 これは、安倍晴明の母・葛の葉をめぐる伝説を題材にした、母と父と子の愛と別れの物語です。 親子とは何なのか。 愛するとは、そばにいることだけなのか。 そして、忘れられない人を抱えたまま、人はどう生きていけばいいのか。 読み終えたあと、あなたの心にもきっと、ひとりの「忘れられない人」が浮かぶかもしれません。 愛しているから、離れた。 愛していたから、忘れられなかった。 これは、母を忘れられなかった少年が、人の心を見る男になるまでの物語です。
――愛しているのに、なぜ離れなければならなかったのか
それなのに、なぜ僕を置いていったの?」
その心の奥には、ひとりの女としての葛藤がありました。
そして、ひとりの子どもの母になる。
子ども・晴明の小さな手。
「母上」と呼ばれた瞬間。
残された者にも、去っていく者にも、深い悲しみが残ります。
「僕が悪かったのか」
「母は僕を忘れてしまったのか」
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